芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)開業までの経緯まとめ

さとう栄一は、宇都宮市長選挙 告示日(2024年11月10日)の出陣式で「(JR宇都宮駅)東口は変わった」と発言しました。実際、高層建築の着工件数が北関東で最も多く、それに加え2023年8月26日、戦後初75年ぶりの新線・次世代型路面電車「芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)」が開業しています。

営業キロ約14.6km複線(宇都宮市域 12.1km、芳賀町域(2.5km)
停留場数宇都宮駅東口〜芳賀・高根沢工業団地間19か所
定員159人(座席は50席)
運行時間帯6時台〜23時台
所要時間約44分・快速運転時は約37-38分
運行間隔10分間隔・ピーク時6分間隔
運賃初乗り150円〜対距離で最大400円(乗り継ぎ割引等あり=バスや地域内交通を乗り継ぐと、100から200円の割引が発生する)

JR宇都宮駅周辺には毎日全国から多くの人が行き交い、まさに宇都宮の町並みが変わる瞬間を私たちは目撃しているわけです。

この記事では、各種発表やさとう栄一 現宇都宮市長を含めた関係者らへのインタビューを元にLRT開業までの布石をざっくりとお伝えしたいと思います(取材は2024年初頭に実施)。

LRT開業は工業団地周辺の交通渋滞がきっかけ

LRT開業の最大の理由は、宇都宮市と芳賀町にまたがる工業団地周辺の交通渋滞です。宇都宮市は製造品出荷額等の中核市として全国で6位の出荷額(2020年工業統計調査より)を誇っているものの、交通渋滞問題を解決できなければ先がないという状態が続きました。宇都宮市の税収の2割近くが工業団地からになるため、この問題を必ず解決しなければならないという危機感があったのです。

「企業側からも、この渋滞問題が続くとなると社員の負担が多い、ここままだとこの団地に居続けられないということを言われていました。また、宇都宮市の税収の2割近くが、これらの工業団地に入居する企業からのものとなりますので、解決しないわけにはいかなかったのです」(佐藤栄一宇都宮市長)

交通問題解決の為に20年ほど前にスタート、投資のリターンが見える状態に

JR宇都宮駅東口を出発点としたLRTの最終地点界隈には大手自動車メーカーと関連企業等を中心として100社以上が集積しており、「清原工業団地」(宇都宮市)には約1万3500人、「芳賀・高根沢工業団地」(芳賀町)には約2万5000人が勤務しています。芳賀町には2021年に新たな工業団地が新設されています。

「芳賀・高根沢工業団地は芳賀町に属しているとはいえ、通勤している社員の多くが宇都宮市に在住していますので、仮にこの渋滞問題が原因で企業が撤退するとなれば地域全体にとって大きな損失となってしまいます」(佐藤栄一 現宇都宮市長)

この工業団地周辺の渋滞問題が注目されたのは、報道などによると約30年前ともいわれますが、宇都宮市内でも所管の職員が知っているだけで、その他は誰も知らない状態といいます。当時の栃木県知事が「新交通システム」という言葉で提唱したこともあるとのことですが、選挙で敗れ継続されなかったそうです。

実際にLRTの取り組みがスタートしたのは、現宇都宮市長さとう栄一が就任したおよそ20年前のこと。所管の職員が市民理解の為にリーフレットをつくり、委員会を組成するところからスタートし、プロジェクトにどれくらいのお金がかかるか試算するための最低限の予算でスタートしたのが始まります。

その後、さとう栄一市長は、任期中の20年間、宇都宮市の財政の健全化を職員に指示し続けつつ「公共交通にしても、環境問題にしても、国が地方にかける意気込みは強い。国の取り組みにいつでも手を上げられるように、自分の地方自治体のアピールする姿勢を常に保った」(さとう栄一談)と話します。

栃木県や国に常に手を挙げ、とにかく投資をして、企業を守り、働く方々を守って、宇都宮に消費が生まれ、そして我々も税収によって、また新たなサービスを展開する。

「つまりは投資に対するリターンというのを意識して街を作ってまいりました。その結果、駅東の LRT 大変好評で、またたくさんの移住者を招いています。関連する消費が生まれているという観点でみれば、その経済効果(直接・第一次・第二次含む)はすでに900億円の経済効果が生まれているというデータもあります。LRTには乗る機会がなくとも、その恩恵を宇都宮市民全体が受けることになるわけです。

宇都宮市でも、沿線側の地価については宅地は8%、商業地は5%の増加。分譲マンションについては、発売後、すぐに売れきれる傾向が続いており。また2021年には工業団地に近い新興住宅地の人口が増加(5年で1.5倍)していることを受け、小学校を新設するなどその成長に拍車がかかっている状態でした。

また、企業も設備、投資等を積極的に展開をしていただき、清原工業団地だけでも約 1100億の設備投資が生まれている状態です」(さとう栄一 現宇都宮市長)。

自分で移動できる街へ、LRT開業でバスはむしろ増加

LRT開業によって、公共交通網にどんな影響があるのでしょうか?当初、公共のバスが無くなるという声も聞かれましたが、実際は200本以上が増便されています(2023年末時点)。

また、芳賀工業団地に研究・開発拠点を構える本田技研工業はそれまで50人乗りの大型バスを29台、毎日5−10分間隔で運行してものを開業後の2023年9月1日に廃止(出典:下野新聞)し、LRTを使った通勤へのシフトを社員に対して推奨している状態です。

そのせいもあってか、平時は10分間隔、ピーク時間帯は6分間隔で運行されるLRTは、通勤通学時間帯は満席状態となる。平日日中でも、ショッピングなどの移動の足として常に利用客がいる状態(平日は14000人/日を超える日もある)。土休日は想定4400人/日を大幅に超える利用者がいるとのこです(2023年末時点)。

さらには開業から82日目となる2023年11月15日、需要予測よりも2週間早く100万人を突破。市民の行動が変わり、地域社会が変容する中で、それらのデータを活かした大型ダイヤ改正を2024年3月に行っています。

次回、LRTはどのような座組で実現に至ったのか、なぜ全国世界から注目されるのか、その構造とお金の観点で説明したいと思います(→数字で観る芳賀・宇都宮LRT「ライトレール」、官官(栃木県・国)、官民連携が生んだ至れり付くせりの事業 )。(了・編集部)

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